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2006年10月21日 (土)

枯野の旅

 NHKニュースによると、今日(20日)、暮坂峠(群馬県中之条町)で牧水の詩「枯野の旅」が読まれたそうだ。

   上野(かみつけ)の草津の湯より
   沢渡(さわたり)の湯に越ゆる路
   名も寂し暮坂峠

 大正11年10月20日の朝、牧水はこの峠を越えて「枯野の旅」を読んだ、らしい。

   乾きたる
   落葉のなかに栗の実を
   湿りたる
   朽葉がしたに橡(とち)の実を
   とりどりに
   拾ふともなく拾ひもちて
   今日の山路を越えて来ぬ

 長い詩だ。
 この旅を記した紀行文が「みなかみ紀行」で、牧水の代表的作品のひとつだ。
 ところが長編の詩を著したにもかかわらず、「みなかみ紀行」では、暮坂峠の記述は素っ気ない。「ひろびろとした枯芒の原、立枯の楢の打続いた暮坂峠」とあるのみで、何の感慨も記されていない。先を急いで通過したみたいな書き方だ。

   草鞋よ
   お前もいよいよ切れるか
   今日
   昨日
   一昨日
   これで三日履いて来た

   履上手の私と
   出来のいいお前と
   二人して越えて来た
   山川のあとをしのぶ
   捨てられぬおもひぞもする
   なつかしきこれの草鞋よ

 牧水の旅は観光旅行ではなかったのだろう。自らと語り合う旅だったのかもしれない。
 牧水の紀行文を読むとき、ぼくは大正9年版の陸軍参謀本部5万分の1の地図でルートをたどりながら読む。国土地理院で複写してもらった。牧水が使った地図と同じものだ。たぶん。

   枯草に腰をおろして
   取り出す参謀本部
   五万分の一の地図

   見るかぎり続く枯野に
   ところどころ立てる枯木の
   立枯の楢の木は見ゆ

 ここでようやく長編詩「枯野の旅」と紀行文「みなかみ紀行」が合致する──「立枯の楢の打続いた暮坂峠」
 昨秋、暮坂峠に立ち、牧水の歌碑を仰いだ。
 風にあおられたおびただしい量の枯れ葉が吹雪のように降りしきる光景を、ぼくは生まれて初めて目の当たりにした。
「枯野の旅」をもう少し……

   路は一つ
   間違へる事は無き筈
   磁石さへよき方をさす

   地図をたたみ
   元気よくマッチ擦るとて
   大きなる欠伸をばしつ

「枯野の旅」は岩波文庫「新編みなかみ紀行」(池内紀編)で読めます。もちろん「みなかみ紀行」も所収。「みなかみ紀行」は青空文庫でも読めますよ。

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