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2006年4月 4日 (火)

忍足亜希子さんのこと

Oshidari001  映画監督というのは、多くの人に助けられて作品を仕上げている。
 忍足亜希子さんには長峰の女房・夢子をやっていただいた。この作品では望むどおりのキャスティングができたと、ぼくはいろんなインタビューで答えているが、実は夢子を誰にやってもらうかがもっとも難しかった。

 長峰は夏八木勲さんにお願いした。さて夏八木さんにどんな女房がいたらいいだろう。脚本は零細企業の看板店を支えるちょっと勝ち気ではっきりとものを言う女房として書かれている。順当といえば順当だ。しかし絵を描くことに挫折しかけた恵美子(清水美那)が出会う大切な夫婦だ。彼らがいかに愛し合い、いかにこの店を営んできたか、ぼくの頭の中には山ほど物語があるがそれを描くわけにはいかない。夢子が登場するのはわずか1シーンなのだ。

 考えあぐねていると、唐突に、忍足亜希子さんの姿が浮かんだ。映画『アイ・ラブ・ユー』『アイ・ラブ・フレンズ』のなかで不器用に見えてしまうほど一生懸命演じていた、いや演じるというより、彼女そのものがスクリーンのなかに生きているように見えた。かなり年齢差はあるが夏八木さんと忍足さんで長峰夫婦を作れないだろうか。

 ぼくの飲み友達に渡辺寿郎くんというのがいる。ぼくの名前に「郎」をつけて「じゅろう」という。行きつけの大森のバア・いっこうで、まだ考えの定まっていないそんな話をしていると、「ぼく、忍足亜希子に連絡とれますよ」と寿郎くんがいったのだ。この言葉にぼくは助けられた。

 数日後、ぼくらは五反田で落ち合った。忍足さんのマネジメントと手話通訳をされているSさんと会い、脚本を渡した。そしてここに書かれている会話を、手話を使わずにできないだろうかと率直に相談した。
 手話を使わずにといったのは、心を閉ざして生きてきた恵美子さんが手話ができるとは思えないからだ。仮にできたとしても観客のために字幕を入れなければならない。手話も字幕も使わずに、恵美子と夢子が会話をし、観客にも分かる方法はないか。夢子を忍足さんにと思いついてずっと考えていたことだった。それはつまり、ぼくはろうの人とどうやって心を通わすのだろうという問いでもあった。

 Sさんは、筆談はどうかとアイデアを出してくれた。図書館で男女が筆談で愛を交わす、そんなシーンが外国映画であったような気がした。しかしこの作品では意見を戦わせなければならない。
 そこで忍足さんとぼくとで筆談で話をしてみることにした。
「脚本はどうでしたか?」
「とても面白かったです」
 話が進むうちにすべてを文字にしなくてもキーワードのみで通じるようになった。○印や×印も有効だと分かった。そして何よりも驚いたのは、文字の書き方で感情を表すことができるということだった。遠慮することなく感情をぶつけ、議論や口論ができるのだ。
 ぼくは脚本を筆談用に書き直した。そして色違いのペンを用い、会話の流れが映像的にも分かるように工夫した。

 こうして脚本の段階では想像もしなかったシーンになった。清水美那ちゃんも忍足さんもリハーサルを重ね、ものすごい早さで文字を書き、筆談を楽しんでくれた。さて観客のみなさんにはどう感じていただけるだろうか。
 求人広告を見て恵美子が長峰看板店を訪ねてくる。夢子は一応履歴書に目を通すが、すでに不採用と決めている。募集したのは男性だったのだ。ここからふたりの丁々発止の攻防が始まる。楽しんで観てもらえたらうれしいなあ。

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コメント

忍足亜希子さんは、とても綺麗な方ですよね!
たくさんの活躍の場があると良いのですが!

私は以前○○市の主催の手話サークルに入って
いました。 4年ほど居たのかしら。
福祉関連と言う事でボランティアなども少しだけ
お手伝いさせて頂いたり・・・。
手話は難しくて、限りなく・・・挫折しました。
すっかり忘れてしまいました。
でも、勉強が好きな方にはお勧めです。
  ☆(^!^)☆

投稿: メイママ | 2006年4月 5日 (水) 00時56分

忍足亜希子は、ぼくも彼女を案内人にしたドキュメンタリーを作ろうと思ったことがありました。
鹿児島の小学生のジャズバンドを訪ねるという話だったのですが、音楽をどうやって聴き、理解するのか、すっきりと回答が出ないままに時がたち、企画は成立しませんでしたが…。
だから、ぜひ見たいです。
きょう、小さな映像学校の初日だったので、「ブレスレス」のチラシを渡して、絶対に行くようにと強制してきました。初日は、監督の挨拶があるんだから。
ぼくもできたら、初日に行きたいと思っています。
リンクしてもらったせいでしょうか、ぼくの日記の訪問者が急激に増えています。
面白いものですね。

投稿: なななかば | 2006年4月 5日 (水) 00時56分

 メイママさん、手話は難しいですねえ。ぼくもいくつか教わりましたが翌日には忘れていました。ぼくは忍足さんのことをたいへん気に入っていて、つぎの作品でもぜひ出ていただきたいと願っています。そしてたぶん、最初からろうの人の設定では脚本を書かず、撮影しながら作り直していく作業をするだろうと思います。その理由を上手く説明できませんが。

 なななかばさん、忍足さんはミュージカルに出演したことがありますよ。ぼくが彼女と知り合ったのはその直後で、たいへん悔しい思いをしました。ぜひ観たかった。
 昨年撮った若山牧水のドキュメンタリーも、当初はまったく異なる視点で描こうとしていて、忍足さんに出てもらうつもりで考えていたのです。ところが宮崎放送と意見が合わずその視点そのものを変更せざるをえなくなり、彼女の出演も断念したのでした。

投稿: 渡辺寿 | 2006年4月 5日 (水) 02時11分

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