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2006年3月29日 (水)

忍成修吾くんのこと

Breathlessoshinari01  中野広志という登場人物は原作(高橋三千綱著)には出てこない。脚本を作るなかで生まれたキャラクターだ。徹(筒井道隆)の同僚巡査・中野広志役を忍成くんにやってもらおうということは、キャスティングのかなり早い段階で決めていた。

 彼を初めて見たのは雑誌のグラビア写真だった。アスファルトの地面に寝転がっている写真だった。それを見て、まずこの子に会わないことには、中野のキャスティングは進まないとキャスティング・プロデューサーに告げた。何がそう思わせたのか、上手く説明ができない。直感といえばそれまでだけど、ぼくはそれほど直感が強くはない。何とか言葉にすると、忍成くんの周囲に漂う空気をこの映画に持ち込みたかったということだろうか。映像には映らないけれど、空気は、確かに見える。

 中野はとても繊細な役どころだ。交番の机について外を眺めているのが好きな青年だ。大学の二部に入ったが最近はあまり行っていない。珈琲を淹れるのが唯一の趣味で、その腕前は相当のものだが、やたらとうんちくを垂れることはしない。交番勤務の巡査は定められた時刻に担当地域を自転車に乗って巡回しなければならない。これを巡回連絡という。これが、彼が社会とかかわる数少ない機会だった。

 忍成くんのHPを見て驚いた。温泉が趣味だと書いてあった。初めて会ったときそのことを尋ねると、はにかみ気味に微笑んで「つぎはどこの温泉に行こうかと考えてるのが好きなんです」と忍成くんは答えた。
 ぼくは、中野をやれるのは彼をおいてほかにはいないと思った。温泉好きだからではない。どこの温泉に行こうかと考えてるのが好きだという答えが気に入ったわけでもない。ぼくが気に入ったのは、はにかみ気味に微笑んだ瞬間の揺れて漂う空気だったのではないかと思う。その空気はグラビア写真で見たものよりずっとずっと良かった。

 中野は交番の机について外を眺めているのが好きな青年と書いた。これはぼくの幼かったころの体験が元になっている。
 小学校の2、3年生のころだ。ぼくは自宅の2階の窓から外を眺めてばかりいた。眼下はなだらかな斜面で畑が広がっていた。農作業をする人の姿が小さく見えた。おそらく夫婦だろう。時折言葉を交わしているらしい。しかしぼくには聞こえない。そのことにぼくはとても不安になった。彼らとぼくには何の繋がりもない。遠くの中学校でチャイムが鳴った。居残っている生徒に下校を促す校内放送も流れてきた。ぼくはますます不安になった。焦燥も覚えた。農作業をする夫婦が帰ってしまうと思ったのだ。帰ってしまう前に彼らと知り合いになりたい。彼らの元へ駆けだしていきたい。しかし勇気がなかった。どうやって声をかけたらいいかも思いつかなかった。ぼくは窓から眺めるばかりだった。

 あのときの不安と焦燥がなんだったのか、ぼくはいまも解決を得ていない。ずっとずっと考えながら生きていくのだろう。そしていまも仕事のない日は、気がつくと窓辺に立っている。たぶんこのことは、ぼくが映画を撮り続けていることと無関係ではないだろう。窓枠がキャメラのフレームに代わったのかもしれない。
 だから白状すると、中野はぼくの分身なのだろうと思う。ぼくのなかには徹的なものと中野的なもの、相反する二つが同居している。加えて下田(不破万作)的願望ももちろんあるに違いない。

 余談だが公式サイトのプロフィールを見て驚いた。
 忍成くんは1981年生まれ。筒井くんは71年生まれ。遠藤憲一くんが61年生まれ。そしてぼくは51年生まれだ。で、不破さんはというと、1946年生まれだ。……おしかった。いやいや、それでいいのだ。何事も頭で考えるように上手くはいかない。

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コメント

映画ってほんとにいいな、と改めて思う出来事がありました。というか、あります。
なんと「きつね」が4月8日から10日までの三日間、京都みなみ会館で上映されるというのです。
きのう、京都に住む友人と大阪にいる友人の両方から報せてくれました。
23年前の映画で、しかも全然ヒットしなくて2週間で上映を打ち切られてしまったのに、こんな風にしてときおり上映されて死なないでいるというのが不思議です。
ぼくにとっては一本しかない映画だから想いが深いのは当たり前でしょうが、こんな風に上映してくれる人がいて、見てくれる人がいるということに、なんともいえない感慨を抱くばかりです。
「映画」への思いが改めて熱くなる出来事で、うれしくなったのでひとこと。
 http://www.rcsmovie.co.jp/index.htm
みなみ会館のURLです。

投稿: なななかば | 2006年3月30日 (木) 13時16分

 なななかばさん、おめでとうございます!

 なななかばさんはぼくの尊敬する映画監督です。
 ハンドルネームの「なななかば」はバイクの七半、しかしなななかばさんは愛車ハーレーダビットソンを盗まれてしまったのでした。
 氏の第1回監督作品『きつね』が久々に上映されます。京都周辺にお住まいの方々、ぜひご覧ください!

『きつね』
 監督:仲倉重郎
 製作:野村芳太郎
 出演:岡林信康/高橋香織
    原田大二郎/三田佳子
 1983年/松竹/104分/
 京都みなみ会館 4月8日~10日(朝10時~、夜9時~)

「きつねからうつされた、エキノコックス症という不治の病の14歳の少女と、35歳の低温科学者との恋を北海道の根釧原野を舞台に描く。高橋香織が大人顔負けの存在感で魅せる、日本映画史に埋もれた幻の佳作」とみなみ会館のHPに解説がありました。

投稿: 渡辺寿 | 2006年3月31日 (金) 01時36分

ニフティシネマトピックスに、
忍成さんインタビューが掲載されました。

http://www.cinematopics.com/cinema/topics/topics.php?number=861&offset=0

喫茶店の窓から外を眺めている時に、心をからっぽにしていた、という答えが印象的でした。

投稿: アルゴ・ピクチャーズ | 2006年3月31日 (金) 18時55分

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