はつとして
はつとしてわれに返れば
満目(まんもく)の冬草山をわが歩み居り 牧水
街を歩いていて、ふと気がつくとこの歌をくちずさんでいることがよくあります。
たったひとり、ひたすら歩いているうちに、心はどこかへ行ってしまい、視野から風景が消えてしまっている。はっとして我に返りあたりを見回すと……ってところでしょうか。
明治43年、牧水25歳の作です。そのころの牧水は恋人・小枝子との仲がうまくいかず、病を得て信州・小諸の田村病院に滞在していました。人生最悪のときといっていいかもしれません。小枝子と別れようと思い、別れられない懊悩の日々は5年に及びました。
田村病院は旧小諸宿本陣問屋で、現在も保存されています。昨年の秋、無理にお願いして内部を撮影させていただきました。短編小説『裾野』によると、牧水は2階の病室をあてがわれていたようです。
白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけれ
かたはらに秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつかしきかな
これらも同じ時期に詠まれた歌です。
当時をフィクション化したものとして『裾野』はたいへん面白いけれど、ぼくは紀行文『信濃の晩秋』が好きです。
こちらは田村病院滞在を世話してくれた岩崎樫郎医師と11年後に再会するところから書き出されています。列車のなかで偶然出会うのですが、その描写がじつにいい。まるで映画のワンシーンのようです。
そういえば牧水の歌も散文も、名画のワンシーンを観るような強く鮮やかな印象を与えてくれます。それはほとんどの作品が、実体験、実体感に基づいていて、しかも平易な言葉と表現で書かれているからではないか、とぼくは考えています。
『信濃の晩秋』は岩波文庫の『新編みなかみ紀行』(池内紀編)に収録されていますから容易に入手できますよ。
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コメント
ご連絡ありがとうございます。早速覗きに来ましたよ!お気に入りに登録しました。(^。^)これから出かけるので、またゆっくり顔出します!
投稿: かおり | 2006年2月23日 (木) 11時21分